今回は、ふたご手帖プロジェクトの代表である金城大学看護学科教授の彦聖美(ひこ きよみ)先生から、研修会での講義の一部分を要約して、ふたご手帖が必要な理由をお伝えします。

「母子保健行政において、市区町村単位で妊娠の届出と同時に母子健康手帳が交付されます。母子健康手帳は母子保健の優れたツールではありますが、多胎育児支援としては課題もあります。
 多胎児に対する保健指導は通常の(単胎児を想定した)母子健康手帳を用いて、専門職の経験に基づき行われています。そのため、多胎の妊産婦や家族の持つ課題が見過ごされたり、単胎児ベースの身体発育曲線を用いて身体発育、運動・言語発達などの遅れを指摘されたりすることにより、支援の遅れや、母親に無用な育児ストレスを与えることが危惧されます。
 また、当事者による支援(ピアサポート)では、育児経験談は一定の有用性を持ちますが、その内容や妥当性には限界がある点に注意が必要です。さらに、全国には、その有用な育児経験談に触れる機会がない人も存在するという「情報格差」、「地域格差」が課題として挙げられます。これらの課題に対して、疫学データを根拠とした信頼性と、さらに当事者の経験知というリアリティ(現実性)を併せ持つツールとして、「ふたご手帖」の活用が期待できます。
このツールを普及することは、当事者はもちろん、保健医療福祉の専門職、民間の育児支援者にとっても、質の保証、支援力の底上げとなると考えられるからです。
 ふたご手帖プロジェクトでは、「ふたご手帖」を全国47都道府県の隅々まで普及することを目指しています。可能な限り、多胎妊婦の母子健康手帳交付と同時に副読本として「ふたご手帖」を配付してほしいと考えています。その場合、予算という壁がありますが、実は思うほど大きな金額ではありません。標準的な県は年間の多胎分娩数が100未満ですので、ふたご手帖を1冊1000円として計算すると、都道府県に年間10万円の予算が付けば、母子健康手帳交付時に全ての多胎妊婦に「ふたご手帖」が行き渡ると試算できます。」
(2019年さが多胎ネット主催研修会報告より抜粋)

彦 聖美 先生のプロフィール
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多胎児家庭支援、男性介護者・家族介護者に関する研究 と支援を行っている。
 石川県の男性介護者カフェ『金沢 YARHO!!』事務局、 「男性介護者のための料理教室楽ちん・美味しい・幸せ ご飯づくり」、「白山市認知症の人と家族の会のレイン ボー」相談役などの活動を通して、男性介護者・家族介 護者の心身と健康と孤立防止の支援をしている。『ふたご手帖』のエビデンスとなる論文「乳幼児双生児 の発育曲線と運動発達(小児保健研究 第 80 巻 3 号 P404-411)」は、公益社団法人日本小児保健協会の令和 3 年度最優秀論文として表彰されました。